ボストン美術館「ヴェネツィア展」担当イルチマンさんにインタビュー!

2015年9月29日

ボストン美術館(ヨーロッパ美術部)の「ボストン美術館 ヴェネツィア展 魅惑の都市の500年」担当キュレーター フレデリック・イルチマンさんが来日!ヴェネツィアの18世紀のコスチュームをまとってインタビューに応じてくれたイルチマンさんに、ヴェネツィアと展覧会への想いを伺いました!

 

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フレデリック・イルチマンさん

(ボストン美術館 ヨーロッパ美術部 部長 キュレーター)

ヴェネツィアにはとても思い入れがあると伺いました
イルチマンさんがヴェネツィアと出会ったきっかけを教えてください

子どもの頃、水の路(みち)や運河があって人々が船で移動する町があると聞き、「なんて素敵で、おとぎ話のような町なんだろう!」と好奇心を掻き立てられたのがきっかけです。1985年に初めて実際に訪れ、ゴンドラが行き交う様を目の前で見た瞬間に「こんな夢のような場所が本当にあるんだ」と一目で恋に落ちました。小さな町ですが、ゴンドラで、徒歩で、少し移動するだけでまったく別の表情を見せるところに魅了されます。夜がとても静かなところも好きです。

ヴェネツィアのお気に入りの場所・おすすめの場所はどこですか
学生の時にヴェネツィアに5年間住んでいました。実は、大学院ではイタリア美術を専攻し、特にティントレットについて研究していました。住んでいた家はティントレットの家から徒歩10分、ティツィアーノの家から5分という場所です。
おすすめしたい場所は2つ、それぞれとても近い建物です。ひとつめは、サンタ・マリア・グロリオーザ・フラーリ聖堂。ティツィアーノによる大作をはじめ、素晴らしい作品が所狭しと展示されています。その教会のすぐそばにあるのが、スクオーラ・グランデ・ディ・サン・ロッコ(サン・ロッコ大信徒会)。ティントレットが1564~1588年の24年をかけて壁と天井に描いた絵画を堪能することができます。それらは、ティントレットが所属していたキリスト教の集まりのためのものでした。彼のあつい信仰心を表すモニュメントともいえるでしょう。絵画に包まれることができるこれら2つの建物がお気に入りの場所です。

イルチマンさんも所属する“Save Venice(ヴェネツィアを救おう)”の活動について教えてください
1966年11月に大洪水がヴェネツィアとフィレンツェを襲いました。フィレンツェでは多くの人々が亡くなりましたが、もともと水と共に生活していたヴェネツィアの人々は乗り切ることができました。しかし水に浸かった建物への被害は甚大です。アメリカには“イタリア美術を救う会”というグループが前からありましたが、その後その中から派生したのが“Save Venice(ヴェネツィアを救おう)”です。ヴェネツィア(ムラーノ島などの島を含む)の絵画、モザイク画、フレスコ画、建築物、彫刻、書籍などを保存・修復するお手伝いをしています。図書館などの施設を支援することもあります。大きな団体ではありませんが、その分、小回りがききます。建物内の絵画から雨漏りが見つかればすぐに手当てをする、といった具合です。実は、“Save Venice”はボストンで発足しました。ボストニアンのヴェネツィア芸術に対する情熱のもうひとつの形といえるでしょう。
 

 

 

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ロレンツォ・ロット《聖母子と聖ヒエロニムス、トレンティーノの聖ニコラウス》1523-24年
Charles Potter Kling Fund 60.154

展覧会の中のお気に入りの作品を教えてください
どれも好きなので難しい質問ですが…強いて挙げるのであれば、ロレンツォ・ロット《聖母子と聖ヒエロニムス、トレンティーノの聖ニコラウス》 (1523-24年)です。近年の修復を経て、大変良いコンディションでご覧いただけますし、とても美しく、また重要な作品です。キリスト教の重要な聖女として並べて展示しているバルトロメオ・ヴィヴァリーニ《マグダラの聖マリア》(1480-90年頃)とティツィアーノ・ヴェチェッリオ《アレクサンド リアの聖カタリナの祈り》(1567年頃)と一緒にご覧いただくことで、時代による表現と技術の変化も見ることができます。

 

 

時代は下って、クロー ド・モネ《ヴェネツィアの大運河》(1908年)も大好きな作品です。同じくサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂を題材にしたアベラルド・モレルの写真作品《サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂》(2006年)も、どうぞお見逃しなく。室内にヴェネツィアの景色を逆さに映し出すというアイデアが好きです。本作を見て思うのは、ヴェネツィアで生まれた芸術を考える時に“reflection(反射)”というキーワードが挙げられるということです。これは水の反射という物理的なことだけでなく、海外からきた芸術家たちにインスピレーションを与えるといった広い意味でも言えるでしょう。

 

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クロード・モネ《ヴェネツィアの大運河》1908年
Bequest of Alexander Cochrane 19.171

Photographs ©2015 Museum of Fine Arts, Boston.

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アベラルド・モレル《サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂》2006年
The Lane Collection L-R 309.2012
©Abelardo Morell, Courtesy Edwynn Houk Gallery

展覧会でぜひ注目してほしいポイントはどこですか

展覧会をご覧になる皆様へのメッセージをお願いします
これだけの規模の展覧会ができる町を、ヴェネツィアの他に知りません。
そこで、私たちはこの魅惑の都市をひとつの美術ジャンルやある時代だけで切り取ることはせずに、ヴェネツィア芸術のすべての側面を見ていただくために130 作品を選びました。ぜひ、ヴェネツィア芸術の多様性にご注目ください。多くの発見があることに、きっと驚かれるはずです。展示は、「比類なき都市」「描かれた祈り」「ヴェネツィア様式」「芸術家たちを魅了する町」というテーマ別の構成になっています。外観から町の中に入り込むように展示していますので、 ヴェネツィアの町を散歩するように展示室の中を行ったり来たりしながら、太陽の光や水面を感じ、時にはゴンドラの姿を見つけ、ゆったりとリラックスした気分で楽しんでいただけると嬉しいです。

 

イルチマンさん、ありがとうございました!