「ルノワールの時代」展 担当キュレーター クレア・ウィトナーさんにインタビュー!

2016年3月31日

「ルノワールの時代 近代ヨーロッパの光と影」展の担当キュレーター クレア・ウィトナーさん(元ボストン美術館 ヨーロッパ美術部 部員)が来日!

クレアさんに展覧会の見どころ、お気に入りの作品、ご専門などを伺いました。

キュレーターの仕事に就いたきっかけを教えてください
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の大学院で研究をしていた時、J・ポール・ゲティ美術館で働く機会を得ました。当時、美術館はクリムトやシーレなどウィーン分離派による作品のコレクションを充実させるためドイツ語を話す人材を探していたので、ドイツ近代美術を専門としていた私にとってラッキーでした。理論や文献を介してではなく、実物の作品を扱いながら研究を行ったのは初めての経験で、作品の近くで働けることにやりがいを感じました。また、学術の世界では論文の執筆のために長期間ひとりで作業することがほとんどですが、美術館での仕事は館の人々と協力してひとつのものを作り上げていきます。私にはひとりの作業よりも人々とコミュニケーションしながら作品のそばで研究をする方が性に合っていたので、美術館でキュレーターとして働きたいと思うようになりました。

 

 

《クラヴァーデルからの山の眺め》.jpg

クレアさんとお気に入りの作品《クラヴァーデルからの山の眺め》
展覧会の中のお気に入りはどの作品ですか
ドイツで19世紀後半から20世紀初頭に活動したエルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーによる、《クラヴァーデルからの山の眺め》です。展覧会の最後に展示されている、象徴的な作品でもあります。初来日のため修復され、作品の美しさをよりよくご覧いただけるようになりました。

 

ボストンの人々にとって、ルノワールの《ブージヴァルのダンス》はどのような作品ですか

 

ルノワール《ブージヴァルのダンス》.jpg

ピエール=オーギュスト・ルノワール

《ブージヴァルのダンス》1883年
Picture Fund 37.375

「ボストン美術館」と聞いて真っ先に思い浮かべる作品ではないかと思います。ヨーロッパ美術コレクションの顔です。ボストンに暮らす人々に限らず、作品そのものが持つ、明るく自由な魅力は、世界中から訪れる人々にとって一度見たら忘れられないのではないでしょうか。
「ルノワールの時代 近代ヨーロッパの光と影」という展覧会においても、展覧会を一番よく表している作品だと思います。女性がまとうドレスは最先端のファッションである一方、 男性が身に着けているスーツは流行とは関係のないシンプルなもの。そして、舞台はパリからほんの15kmでも素朴な雰囲気が残るブージヴァル。「都市」か 「田舎」のどちらでもなく、そのどちらも兼ね備えている作品です。

 

展覧会をどのように楽しんでもらいたいですか
まずは、Old Friend(馴染みの友達)に会いに来る気持ちで、ルノワール《ブージヴァルのダンス》を楽しみにご来館ください。すると、キルヒナーをはじめたくさんの New Friends(新しい友達)も皆様を待っていることに気付かれることと思います。特に、展示室の後半でご紹介しているドイツ表現主義の作家は日本ではあまり知られていないと思いますので、ぜひ最後まで新しい出会いを楽しんでいただけると嬉しいです。

展覧会を担当されて新しく発見したことはありますか
数ある所蔵品の中から出品作品を検討している時に、いくつもの作品に都市のランドマークとして同じモチーフが繰り返し登場することに気付きました。例えば、ロンドンの国会議事堂はモネの油彩とルペールの木口木版に描かれています。それらを見比べることにより、同じモチーフでも表現方法の違いで与える印象が全く異なることが分かります。それは、同じ「都市」でも作家によって見え方が違っていたことでもあり、大変興味深いです。

 

モネ《チャリングクロス橋(曇りの日)》.jpg

クロード・モネ《チャリングクロス橋(曇りの日)、1900年》1900年
Given by Janet Hubbard Stevens in memory of her mother, Janet Watson Hubbard 1978.465

オーギュスト・ルペール《夜9時の国会議事堂》.jpg

オーギュスト・ルペール《夜9時の国会議事堂》1890年

Gift of Eijk and Rose-Marie van Otterloo 2010.1314

 

《田舎で働く人々のための習作(箕をふるう人)》.jpg

作者不詳、出版者 オーギュスト・ジロードン

《田舎で働く人々のための習作(箕をふるう人)》1870年頃

Ernest Wadsworth Longfellow Fund 2002.52

《田舎で働く人々のための習作(箕をふるう人)》は、画家が田舎の風景を描く制作準備に使うために売り出された写真の内の1枚ですが、都市に住む人々の可笑しさが感じられます。都市の人々が“田舎らしい”写真を買って、田舎の風景をもっと描き、都市に住む人々に売る。都市の人々にとって田舎という場所がこれほどまでにファンタジー化されていた現実を垣間見ることができ、驚きました。

 

展覧会の副題は「近代ヨーロッパの光と影」ですが、

近代の「光」と「影」をどのようなところに見ますか
「光」 と「影」は常に揺れ動いていたと感じます。都市にも田舎にもどちらも存在していました。ミレー《木陰に座る羊飼いの娘》に代表されるように、田舎には穏やかさという「光」 がある一方、ウォルター・ゲイ《機を織る人》が描いた貧困という「影」があります。オスマン男爵による改造後のパリに代表される都市には、人々がにぎやかに交流するカフェや広場という「光」がある一方、貧困や幻滅という「影」が。そういった意味で、都市と田舎は対極にあるわけではありません。どちらかが 「光」でどちらかが「影」ということがないからです。

 

 

 

 

 

 

 

ミレー《木陰に座る羊飼いの娘》.jpg

ジャン=フランソワ・ミレー

《木陰に座る羊飼いの娘》1872年 
Robert Dawson Evans Collection 17.3235

ウォルター・ゲイ《機を織る人》.jpg

ウォルター・ゲイ《機を織る人》1886年

Gift of Mrs. Walter Gay 39.736

はじめての日本の印象はいかがですか
皆さんとても親切に暖かく迎えてくださり嬉しく思っています。都市で生まれ育ちましたので、同じく都市である名古屋で目にするあらゆるものに興味があります。お食事がとてもおいしいです!

 

クレアさん、ありがとうございました!