「2016年5月」のアーカイブ

就任1年目のマシュー館長に、美術に対する想い、ボストン美術館について、そして、初めての日本の印象を伺いました。

(昨年のマシュー館長就任に寄せた馬場駿吉館長からのお祝いの言葉はこちら

 

アートギャラリー・オブ・オンタリオ(カナダ・トロント)をはじめ、何年もの美術館勤務の経験をお持ちです

美術館勤務で大切にしていることは何ですか

 

マシュー・テイテルバウム館長.jpg

ボストン美術館 11代目館長 マシュー・テイテルバウム館長
名古屋で11年ぶりにやってきた、ボストン美術館の顔とも言えるルノワール《ブージヴァルのダンス》の前で

「アートは人々の考え方を変える」「アートは地域のコミュニティーを作る」「アートは新しい文化のつながりを助ける」という信条を大切にしています。

画家を父に持ち、私はずっと美術の世界を生きてきました。そんな私の経験を通して信じるようになったのが、作品と向き合うということは、目で見るだけではなく、作家が込めた想いや考えを知ることだということです。表現されているものが「作家にとってなぜ重要なのか」、この問いに真剣に向かい合うことで、同じ作品に出会った人同士の間に会話が生まれます。例えば、それが社会に対してどういう意味を持つか、などをテーマにして。その会話が生まれるために、美術館が果たす役割はとても大きい。社会に対する力強く前向きな貢献だと考えます。

 

ボストン美術館を誇りに感じるところはどこですか

ボストン美術館は偉大なコレクションを持つ素晴らしい美術館です。この1年間、館長として美術館で過ごしてきて、より一層その思いを深くしました。木の年輪のように、ボストン美術館は様々なコレクションを持ち、それらがしっかりと繋がり合っています。この素晴らしさをより多くの皆さんと共有したいと思ってい ます。

美術館で働くということは、大変光栄なことであると同時に、義務を負っているということだと考えます。作品を大切に保存し、記憶に残る形で広く公開する。ボストン美術館のスタッフがこの義務を果たそうとまい進する姿勢に、とても感心しています。

 

美術館の館長として、嬉しく感じる瞬間はどんな時ですか

一緒に働くスタッフたちが、自分の夢や志に気付いた時、そして、彼ら彼女らが仲間と共にそれらを実現していく姿を目にする時です。インスピレーションを受けて、チームが作られ、夢が達成される瞬間を目の当たりにできるのは嬉しいことです。

とても満足する瞬間は、美術館が“忙しくしている”時です。美術館が、美術にまつわる多様なアクティビティで活気づいている時にワクワクします。

 

ボストン美術館の45万点ものコレクションから選んでいただくのは難しいと思いますが、お気に入りの3作品を教えてください

答えになっていないと思われるかもしれませんが、実は一番のお気に入りは「私がまだ出会っていない作品」です。

美術館はいつも発見の場であるべきだと思っています。

 

しかし、せっかくの機会ですので好きな3作品をご紹介しましょう。  

 

ポール・セザンヌ《赤い肘掛け椅子のセザンヌ夫人》.jpg

ポール・セザンヌ《赤い肘掛け椅子のセザンヌ夫人》1877年頃
Bequest of Robert Treat Paine, 2nd 44.776
Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

ますは、セザンヌが妻を描いた肖像画。質感を持ったリアルさと抽象的な要素が、夫人の衣服と壁の模様により共存しているところが気に入っています。

 

 

 

ウィリアム・ターナー《奴隷船》.jpg

ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナー《奴隷船(死者と瀕死者を海に投げ込む奴隷商人、暴風雨の襲来)》1840年
Henry Lillie Pierce Fund 99.22
Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

次に、命を表現したターナーの《奴隷船》。ぞっとする恐怖と美が表現されているところが好きです。

 

《アンクハフ王子の胸像》.jpg

《アンクハフ王子の胸像》前2520-前2494年
Harvard University—Boston Museum of Fine Arts Expedition 27.442
Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

そして、なぜこんなに美しいと感じるのか分からないのですがエジプト美術の《アンクハフ王子の胸像》。きっと“リアル”だからだと思います。この場合の“リアル”とは内側からの動きを感じられる形を持っているということです。

 

はじめての日本と名古屋ボストン美術館の印象はいかがですか

暖かく歓迎してくださりありがとうございます。

日本文化の形は私にとって新しいものですが、日本文化が人間関係に基づいている、ということを感じ、とても親近感を感じています。人間関係こそが社会の中心であると信じているからです。

名古屋ボストン美術館は、よくまとまっており美しい美術館だと感じました。市内に溶け込み、市民の身近にあることも分かり、嬉しいです。美術館はいつも丘の上にある必要はなく、人々の生活の一部であるべきだと思います。

 

日本の来館者の皆さんにメッセージをお願いします

美術の可能性を信じてください。美術館は、皆さんが集まり、経験を分かち合い、想像力を祝福する場所として、皆さんをお待ちしています。

そうそう、ミュージアムショップでのお買い物もお忘れなく(笑)。

 

マシュー館長の美術に対する深い信頼を感じました。ありがとうございました!